交通評論

【はかた号乗車記】今のはかた号はケツの肉が取れる夢を見ることはない!?

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西鉄バスが運行する東京~福岡の夜行高速バス「はかた号」かつて「水曜どうでしょう」で過酷なバスとして有名になりましたが、2020年に導入した最新車両では快適性が大幅に向上し、今やケツの肉が取れるというのはすっかり過去の物になりました。実際に私が乗車しましたので、その乗車記を書いていきます。

はかた号とは

はかた号は1990年に運行を開始した東京と北九州、福岡を繋ぐ日本最長級の高速路線バスです。この路線が一躍有名になったのは何といっても北海道の人気番組「水曜どうでしょう」に登場したこと。「サイコロの旅」という、サイコロの出目により旅の行き先を決めるというコーナーですが、このコーナーではかた号に3回も乗車しています。ミスターの名言「ケツの肉が取れる夢を見た」という言葉はあまりにも有名ですね。同番組でははかた号を「キング・オブ・夜行バス」と紹介。まさに高速バスの頂点にして王者として君臨する、そんなバスです。

今のはかた号の車両について

「はかた号」は前述の通り、1日1000km以上を走ることから、結構な高頻度で車両の入れ替えが行われています。現在「はかた号」で使用される専用車両は2020年に導入された三菱・エアロクイーンとなっています。後方は通常の高速バスと同様の3列シートとなっていますが、前方2列、4席のみ「プレミアムシート」と呼ばれる半個室型のシートが設置されています。今回はこのプレミアムシートに乗車した乗車記を書きます。

出発/バスタ新宿 2つの博多行きバス

「はかた号」の東京側はバスタ新宿より出発。新宿駅の横にある日本有数のバスターミナルです。他の夜行バスと異なり、バスタ新宿を出ると渋谷など他の拠点は通らずに、小倉駅まで止まりません。

21時以降のバスタ新宿は、全国各地に行く夜行バスが続々と発着するまさに現代の上野駅。鉄道では失われてしまった多様な行先表示を見ることができます。遠い行き先のバスが先に出発し、夜遅くになるにつれ大阪や名古屋といった行き先が増えてきます。その中でも最も遠い行き先が博多。そして上の行き先表示を見ると、まったく同じ時間に博多行きが2本あることが分かります。これははかた号の続行ではなく、全く違うバス会社が運行する全く違うバスです。

はかた号と同時刻に出る博多行きの高速バスがこちら。天領バスです。はかた号と同時にバスタ新宿を出発するので、新宿から山口県まで、抜きつ抜かれつのデッドヒート状態となります。はかた号は小倉まで直行しますが、天領バスは新山口駅を経由するため、そこで別れます。はかた号との違いはそれだけでなく、こちらは全席4列シートという鬼畜仕様。その分安いですが、4列シートで1000km超15時間耐久は間違いなく日本で指折りの過酷な移動手段でしょう。

この天領バス102号車はこの撮影のおよそ一か月後、新東名高速道路で事故を起こし大きく損傷しました。そして現在は天領バスの新宿~博多線は運休となっています。東京~博多を結ぶバスはもう1路線あり、オリオンバス(運行会社:オーティービー)が東京八重洲発(21:10発)小倉・博多行きの便を運行しています。こちらも4列シート車となっています。運行距離はそのオリオンバスよりはかた号の方が僅かに短くなっています。

はかた号の外観・車内

発車のおよそ10分前、20:50頃にはかた号が乗り場に入ってきました。西鉄バスのフラッグシップであるはかた号は基本的に専用車両による運行となっており、社番は「0001」と「0002」が割り振られています。ちなみにこの車両の導入以前に専用車両として走っていた車両は、「0003」「0004」に番号が変わっており、現在では多客期にはかた号の2号車に入ったり、専用車両が整備や検査の際に代走として走っています。

西鉄バスの夜行車両はいわゆる「白夜行」という岡本太郎氏のデザインが施されていますが、その中でもはかた号専用車両は金色のデザインで、側面には「Line Connecting Hakata with Tokyo」の文字が入っています。前方2列のみ半個室型のプレミアムシートで、この部分だけカーテンが開いた状態で入ってきました。

プレミアムシートです。半個室なので3方が壁ですが通路側はカーテンの仕切りとなっています。完全個室にしてしまうと各個室に防犯カメラを設置しないといけないらしく、費用が高額になってしまうようです。完全個室のドリームスリーパーは東京~奈良で20000円の価格設定となっています(はかた号プレミアムは18000円~22000円)

操作盤などです。一番上はSOSボタンで、プレミアムシートは各座席に設置されています。その下がリクライニングなどのボタン。全部電動となっています。座席のリクライニングの他、足置きの角度も調整できますし、さらにシートヒーター、送風機能、マッサージ機能まで搭載されています。まさに最高級の座席です。一番下はライトのスイッチで、オンオフのみならず明るさを無段階で調整できる機能もあります。

座席後方です。ライトは自分でオンオフできますので、消灯時間以降にライトを点けても問題ありません。その横は空気清浄機で、各座席に1つ搭載されています。

遮光はカーテンではなく無段階調整可能なブラインドとなっています。古い路線バスではたまにブラインドがありますが、高速バス車両でブラインドは非常に珍しいです。

身長160cmの私が足を延ばしてギリギリ前の壁に当たるくらいでしたので、恐らく170cm以上ある方は窮屈に感じることがあるかもしれません。それ以上に困ったのが荷物の置き場所。座席上の網棚は通常の高速バスより狭く、小さい(薄い)荷物しか入りません。足元に置くスペースも限られますので難しいところです。

充電設備はUSB差込口×2と無線充電装置があります。同時に3台充電できるありがたい仕様です。

テーブルはひじ掛けに折りたたんで収納されています。展開するとまあまあ広いテーブルになりますが、テーブル自体がかなり歪んでいたのが気になりました。

出発・福岡へ

バスタ新宿を出て高速へ。

首都高へ。前を走るのは先ほどの天領バス。この後山口県までほぼ一緒に走ることになります。

プレミアムシートではアメニティが配られます。蒸気アイマスクとウエットティッシュが配られました。

通常の夜行バスでは夜景を楽しむことはできませんが、はかた号プレミアムなら楽しめます。

23:10頃に新東名の静岡SAで休憩。ここで15分~20分ほど停車しました。ここで歯磨きなど就寝の準備をしておきます。はかた号は休憩が極端に少なく、1000km以上を走るのに開放休憩は2回だけ。静岡SAを出ると山口県の佐波川PAまで止まりません。これ以外にもおおむね2時間おきに運転手が交代するために停車しますが、開放休憩ではないので降りることはできません。

日付が変わって0時過ぎ、恐らく天竜川を通過。

とりあえずこのあたりで寝ようとしましたが、夜行バス慣れしていない私はなかなか眠れませんでした。時々ブラインドを開けていましたが、途中で大規模な工事渋滞にようで、全然前に進まないような時間がありました。

朝7時、ブラインドを開けたら朝日が昇る瀬戸内海。最高の景色です。バスは広島付近を走行中でした。通常、夜行バスは太陽が昇ることには目的地に着くことが多いのですが、はかた号はまだまだここから数百キロを走ります。

朝8:30頃、山口県の佐波川SAに到着。ここで15分ほど休憩です。新宿を同時刻に発車した天領バスもいました。なおこの時点で30分以上遅れていたようです。

このお茶も無料サービスです。プレミアムだけでなく全員に配られます。

9:50頃、関門海峡を渡り九州へ。

10:15頃、最初の停留所である小倉駅に到着。

11:21頃、福岡貨物ターミナルが見えてきていよいよ福岡市街地へ突入します。

11:35頃、バスは西鉄天神高速バスターミナルに到着。本来は博多まで乗る予定でしたが、20分ほど遅れており、この後の旅程に影響がありそうだったので天神で降りました。あまり眠れず疲れましたが、それでも「旅情」のある旅でした。

まとめ

日本最長級の距離を走破し、キング・オブ・夜行バスの異名もあるはかた号。その中でも4席しかないプレミアムシートは、特にコロナ禍を経て人気が高まり、現在では土日を中心にまさに「プレミア」席となっています。私が乗車したのは平日(木曜日)でしたが、それでも一か月前に予約した時には残り1席となっていました。はかた号は乗車の二か月前から予約開始ですので、確実にプレミアムシートに乗りたいなら早めに予約した方がよさそうです。

はかた号プレミアムは一般的な夜行バスと寝台列車の中間点に位置する存在だと思いました。基本的なところは夜行バスですが、夜行バスと違い自由に電気を点けたり、ブラインドを開けたりできるのが夜行バスにはない利点ですね。また、通常の夜行バスより長距離、長時間を走るので、移動を楽しめる人にはうってつけですね。逆にバス酔いする人だったり、夜行バス耐性が無い人には厳しいと思います。電車やバスの中で平気で寝れるなら本当に快適だと思います。

良かった点

まず座席ですが、クッションが非常にしっかりした最高級の座席で、15時間ほど乗車したにも関わらず尻が痛くなることは全くありませんでした。「どうでしょう」の時代から車両は大幅に進化しており、少なくともプレミアムシートでは快適な旅が楽しめると言ってよさそうです。座席にはマッサージ機能もありますが、これもなかなか良かったです。あとは無料配布のアイマスクもありがたいですね。夜行バスという非常に限られたスペースの中で、いかに最高級のおもてなしをするか、ここがよく考えられていると思いました。

一番良かったのは半個室で他の座席に光が漏れないので、消灯時間を過ぎてもカーテンを開けていてもいいですし、電気を点けていても問題なかった点。通常の高速バスは消灯時間後はカーテンを開けてはいけないのがルールで、スマホの光すら憚られます。ですがはかた号プレミアムでは電気を消して夜の高速道路の景色を楽しむこともできますし、消灯時間後にスマホを弄っても、読書をしても問題ありません。朝起きてブラインドを開けたら朝日が昇る瀬戸内海で、昔乗車したブルートレインを思い出しましたね。高速バスの中では「旅情」を楽しめる数少ないバスだと思います。

悪かった点

まずリクライニングが思ったよりも全然倒れませんでした。後ろのパーテーションまで距離がまだあるにも関わらず、全然倒れません。感覚としては新幹線の普通車と同じくらいか、それよりも浅いかな?という感じです。少なくともグリーン車と比較すると全然です。

それから、やはりパーテーションに遮音効果はまったくありません。普通に周りの席の音は聞こえます。私が乗車していた時は咳をしている人がいたのであまり眠れませんでした。あといびきも普通に聞こえます。その点は通常の高速バスと変わりません。高速バス慣れしていない人は避けた方が良いかもしれません。逆にそういった環境に慣れているならば非常に快適に感じると思います。

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